突然の災害でも困らないために 子どもの食物アレルギー対策

最近では、就学前の子どもの20人に1人は、卵や牛乳、小麦などにアレルギーがあるといわれています。幼稚園や保育園、学校などの給食でも、食物アレルギーの子どもには専用の食事が出されるので安心しているママも多いのではないでしょうか。また、スーパーやネットでも各アレルギーに応じた食品が手に入るようになり、大変便利になりました。

 

一方で社会問題ともなっているのが、災害時の食物アレルギー対策です。近年では自然災害が増えています。未曾有の大災害となってしまった東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨の際には、食物アレルギーをもつ人への配慮が十分に行き届かず大きな問題となりました。この先の時代も、南海トラフ地震や首都直下地震など予測されている災害もあります。今回は、突然の災害でも困らないために、わが子を守る食物アレルギー対策について考えてみたいと思います。

 

 

災害で実際に困った経験から

 

大きな災害が毎年起こっているといっても過言ではない日本。災害のたびに自治体が備蓄している非常食や救援物資の食べ物が食物アレルギーに対応していないという問題がありました。そのたびに、食物アレルギーをもつ人々やその家族は、食料を確保するために大変な苦労をしてきました。

 

避難生活が長引いた際には、子どもの命の危険を感じたというママもいるほどです(※1)。また、アレルギーに対して理解がないケースでは、「緊急時にわがままを言うな」との声を浴びせられたこともあるようです(※2)。

 

食物アレルギーをもつ人にとっては、アレルゲンが入った非常食や救援物資はまさに命を危険にさらすものになってしまいます。そのため、過去の災害を教訓に、自治体では備蓄する非常食にアレルギー対応の食事も含めるところが増えてきています。また、日本小児アレルギー学会をはじめ、各アレルギーの支援団体が声をあげ、避難所に配備すべきアレルギー対応食品について提案などを行っています(※3)。

 

しかし、自治体も含めて社会全体としての取り組みはまだまだ十分とはいえず、アレルギーをもつ人自身の備えも万全にしておかなければならいのが現状です。

 

災害に備えて心得るべき6項目

 

被災してしまうと、それだけで生活全体が困難になりますが、食物アレルギーがある場合はさらにつらい状況になってしまうことがあります。自然災害は人為的に止められるものではなく、いつどこで発生するかわかりません。来るべき災害に備えて、食物アレルギーの子をもつ親が心得ておくべき6項目をまとめました。ぜひ参考になさってください。

 

◆<1>困った時の連絡先リストをつくる

 

一般的に災害時には、日頃から使っている物資が手に入りにくくなります。特に大規模な災害が発生すると、交通網が寸断されたり、ガスや水道といったライフラインが止まったりすることがあります。

 

避難所に避難する場合もあれば、自宅で待機することもありますが、いずれにしても困ったときに相談できる先をまとめておくとよいでしょう。紙に書いたものであれば防災袋に入れておいたり、紙に書かなくてもスマホのメモ機能を利用しても便利です。

 

アレルギー専用の相談先は限られていますが、かかりつけ医や地域の保健センターに加えて、日本小児アレルギー学会の相談窓口もリストに入れておくと便利です。被災時の子どものアレルギー性疾患症状全般について相談にのってくれます。直近の災害では、2018年北海道胆振東部地震や2018年西日本豪雨の災害時にも以下のような告知がありました。困ったときはいつでも利用できるように、登録しておくとよいでしょう。

 

「平成30年北海道胆振東部地震で被災された皆様へお見舞いと『相談窓口』のご案内」

http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=259

 

◆<2>食物アレルギー用の非常食を用意しておく

 

災害のたびに防災意識が高まり、今では多くの家庭で非常用防災セットを常備していると思います。警視庁では、飲料水と食糧は最低3日分用意することをすすめています(※4)。子どものアレルギー対応の食事についても、最低3日分以上、できれば1週間分くらいを自宅でも準備しておきましょう。

 

これに加えて、処方薬や保存食を常備しておくことも忘れないでください。緊急用としてエピペン®を処方されている場合も何かあったらすぐに利用できる状態にしておきましょう。また、アレルギー食として干し芋を冷凍しておくと、災害時の保冷剤としても使えるそうです。

 

他にも、普段から親戚にアレルギー食をストックしてもらい、災害時に送ってもらうという工夫もできそうですね(※5)。

 

◆<3>ライフラインがストップすることを想定する

 

保存食として生米をストックしている、乾麺を用意しているという家庭もあると思います。しかし、災害が起こると、水やガス、電気といったライフラインが止まることがあるので注意が必要です。ライフラインがストップすることを想定した準備をしておかなければなりません。

 

電気やガスの調理器具を使っている家庭では、その代替としてガスボンベを入れるカセットコンロやキャンプ用のコンロが重宝するようです。水は生活の要となり、飲むための飲料水のみならず、口をゆすぐ、トイレで使うなど想像以上に必要になります。おむつ替えでおしりを拭く、赤ちゃんの体をふくなど大量の水が必要で、飲料水を使わざるをえないケースもあります。

 

水は、1人1日3リットル×3日分×家族人数分を備えておくとよいといわれています(※5)。家族4人いれば、最低36リットル必要ということになります。2リットルのペットボトルであれば18本になり意外に多いことがわかりますね。

 

ライフラインが使えない場合に備えて、備蓄する食品にはレトルトや缶詰などそのまま食べられるものも用意しておきましょう。被災地に支援物資が届くことがありますが、アルファ米が支給されることが多くなっています。アルファ米は、ご飯を炊き上げた後に乾燥させた米で、お湯か水を注ぐだけでご飯ができあがるというものです(※6)。手軽で保存がきくため、多くの自治体で災害食として採用されています。水がない場合は、野菜ジュースで戻すこともできるので、臨機応変に対応できるように頭に入れておいてください。

 

◆<4>炊き出しの食事・支援物資は内容をよく確認する

 

温かい食事を提供してくれる炊き出しは、災害時には本当にありがたいものです。支援物資として届く非常食も大いに役立ちます。しかし、食物アレルギーをもっている子にとっては、誤食によりアレルギー症状が出てしまう恐れがあります。

 

炊き出しの際には、原因食物が調理のときに使用されていないかを確認しましょう。残念ながら、炊き出しの場合はアレルギー専用食事として調理されているわけではありません。全員向けに大量に調理されるため、原因食物が多少なりとも混入しているものと考えるのがよさそうです(※7)。

 

支給された食べ物も、原材料の表示を確認してください。「鶏卵、乳、小麦、ピーナッツ、ソバ、エビ、カニ」は使用されていれば必ず原材料に表示されます。ただし、これ以外の食物は必ずしも表示されないので注意してください(※7)。

 

避難所などに行くと、良かれと思って小さい子どもに食べ物をくれる人もいます。食物アレルギーがある場合は、必ず保護者が内容を確認してから食べるようにと、あらかじめ子どもに教えておきましょう。

 

◆<5>食物アレルギーがあることを周囲に知らせる

 

突然の災害では、一時的に親と子が離れ離れになることがあります。親が一緒にいたとしても、親がケガをしてしまったり、動揺するケースも想定されます。いかなる状況でも、子どもに食物アレルギーがあること、毎回の食事で配慮しなければならないことを周囲にも知らせることができるようにしておきたいものです。

 

特に避難所などに身を寄せる場合は、アレルギーがあるということを周囲に目視でわかるようにすると効果的だといわれています。アレルギーサインプレートやカード、シールなどを身につける方法です(※8)。

 

子どもの胸に「牛乳アレルギーあり」などと書いたシールを貼るなどして、周りの人に食物アレルギーがあることを分かりやすく伝え、誤食事故を防ぎましょう。アレルギー支援ネットワークでは、「緊急時(災害時)のおねがいカード」を作成・配布しています(※9)。いざというときのために、主治医や疾患名なども記入するようになっており、子どもがランドセルなどに入れておけるように設計されています。ぜひ利用してみてください。

 

「緊急時(災害時)のおねがいカード」アレルギー支援ネットワーク

http://alle-net.com/wp2/wp-content/uploads/2017/11/emargencyCard.pdf

 

また、近くに行政の担当者がいれば、子どもにアレルギーがあることを伝えて、支援が受けられるように早めに相談しておきましょう。

 

◆<6>ご近所さん・自治会・患者会とつながっておく

 

最後は、人のつながりです。現代は近所づきあいが希薄だといわれることがありますが、災害時に最初に声をかけあい、助け合うのは近隣の人々になります。町内会に所属していたり、地域の民生委員がいる場合は、食物アレルギーの子どもがいることを知らせておくとよいでしょう(※5)。

 

東日本大震災でも話題になりましたが、地域によっては自主的な防災組織が活発に機能しているところもあります。一般的に、高齢者や障がい者は要援護者として認識されている場合が多いのですが、アレルギー児も自治体などの対策に加えてもらうのもひとつの方法だとされています(※5)。また、すでに食物アレルギーの患者会などに所属している家庭もあると思います。緊急連絡網や相互援助の制度がどうなっているかを事前に確認しておきましょう。

 

 

いかがでしたか?

いざ災害が起きると、行政の働きだけでは限界があります。わが子を守るために、事前に家庭で準備できることはたくさんあります。今回の記事を参考にして不測の事態に備えてくださいね。AlleHapiでは、今後も皆さんに役立つ情報を発信してまいります。

 

【参考資料】

※1:「(WEB特集)避難所でわが子は生きていけない」NHK NEWS WEB

https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_1004.html

※2:「アレルギー 災害時の配慮広がる」産経ニュース

https://www.sankei.com/region/news/170317/rgn1703170017-n1.html

※3:「大規模災害対策におけるアレルギー用食品の備蓄に関する提案」日本小児アレルギー学会

http://www.jspaci.jp/modules/gcontents/index.php?content_id=10

※4:「地震に対するふだんの備え」警視庁

http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/saigai/jishin/sonae.html

※5:「災害支援案内」認定特定非営利活動法人FaSoLabo京都

http://www.allergy-k.org/disastersupport/disaster-support.html

※6:「アルファ米について」尾西食品株式会社

https://www.onisifoods.co.jp/about/alpharice.html

※7:「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット」2017年、日本小児アレルギー学会

https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/000331775.pdf

※8:「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」2013年、内閣府

http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/h25/pdf/kankyoukakuho-honbun.pdf

※9:「緊急時のおねがいカード」認定NPO法人(特定非営利活動法人)アレルギー支援ネットワーク

http://alle-net.com/bousai/bousai01/bousai01-06/

※10:日本小児アレルギー学会ホームページ

http://www.jspaci.jp/